- サンシャイン水族館が水中ドローンを使用して新種のエビを発見
- 200m以下の深海の調査に水中ドローンを活用していく計画
- 政府もAUV活用に力を注ぎ、2030年までに国産化・産業化を目指す
サンシャイン水族館は、生物飼育や展示、深海に関する情報の収集と発信のために、2019年から静岡県駿河湾を中心に水中ドローンを用いた深海調査を定期的に実施している。2022年12月からは、静岡県から特別採捕許可を得て水中ドローンにアームを取り付け、深海生物採集に行ってきた。
2023年2月24日と4月27日には、静岡県駿河湾の水深130~200mで調査を実施。この際に採取したウミユリの一種であるトリノアシに付着していたエビを、千葉県立中央博物館の駒井智幸氏と共同研究し、新属・新種のエビとして11月30日に論文公表した。新種のエビは、トリノアシに共生していたことから「トリノアシヤドリエビ」と命名された。
採集された個体は、頭胸甲長1.3mmの幼体と頭胸甲長3.2 mmの卵を抱えたメスで、静岡県沼津市沖の駿河湾の水深130〜200mに生息していたトリノアシに共生していた。深海に生息するトリノアシに共生する十脚類の記録は、世界的にみても貴重な発見だ。未解明の海域で水中ドローンを用いて新種を発見し、生きた状態でトリノアシに共生している様子を観察し、記録・採集できたことは、学術的にも非常に価値のある事例である。現在、2体は標本化され、千葉県立中央博物館に収蔵されている。千葉県立中央博物館動物学研究科長の駒井智幸氏は「網を使った採取方法では途中で逃げてしまうので、なかなか確認できなかった。今後も水中ドローンの調査で新しい発見がされることを期待する」とコメント。サンシャイン水族館飼育スタッフの先山広輝氏も「改めて、深海200m付近の海域は漁獲や混獲される生物以外の調査があまり進んでいない現状が浮き彫りになった。今後も水中ドローンを使っての調査を継続して深海の謎を解明していきたい」と意気込みを語った。
水深200m以下の深海は不明なことが多い。サンシャイン水族館は、定期的な調査を通じて深海生物の映像や生息環境など様々な情報を集め、生物飼育や展示に活かし、深海の情報を広めることを目指している。2019年からは、小型で遠隔の操作性に優れたFulldepth社製の水中ドローンを用いて水深200m付近の深海調査を静岡県駿河湾を中心に定期的に行っており、未知の領域を解明する研究に取り組んでいる。
サンシャイン水族館では、今後も水中ドローンを使用した調査を続け、深海の謎を解明していく予定だ。また、深海生物に焦点を当てたイベント「ゾクゾク深海生物2024」を開催予定。「遠いけど近い!?近づきたい!深海の世界」をテーマに様々な展示を行う。
水中ドローンは海中に潜って撮影をすることが可能なため、船底についたフジツボの調査や洋上風力発電のメンテナンスなどにも活用することが期待されるが、あくまで「調査」するだけでそのまま作業に入れないため、実用性に疑問がある。だが、本調査ではアームを付けることで採取も実現。ギアを使用すれば活用の幅が広がることが証明された。
折しも昨年12月には政府の総合海洋政策本部が「自律型無人探査機(AUV)の 社会実装に向けた戦略 (案) 」を取りまとめた。この中で海洋は経済・安保の基盤であり新たな市場拡大が期待されていることに触れ、2030年までのAUVの国産化・産業化を目指して、官民連携や実証実験を展開するとしている。
空を飛ぶドローンと比べて産業や利活用が伸びなかった水中ドローンだが、政府も本腰を入れて取り組みを始めたことで、新たな展開を迎えそうだ。
採集の瞬間(水中ドローンで撮影した動画)