DRONE NEWS

2024.04.02

奈良市で医薬品をレベル3.5飛行で配送

奈良市、KDDIスマートドローン、コミュニティメディカル、NEXT DELIVERYは、ドローンで薬局からの処方薬配送と災害時の医薬品配送の実証実験を実施。

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  • 奈良市東部地域の面積は奈良市全体の約57%を占めるが人口は約3%
  • 東部地域の65歳以上の人口は約4,700人で高齢化率は約45.7%
  • オンライン服薬指導用にタブレットをドローンで配送してから医薬品を配送

奈良市、KDDIスマートドローン、コミュニティメディカル、NEXT DELIVERYは、2024年2月26日から2月28日にかけて、奈良市において無人航空機レベル3.5飛行による処方薬配送と、災害時の医薬品配送を想定して薬局を起点としたドローン物流の実証実験を実施した。


奈良市の東部地域は、田原・柳生・大柳生・東里・狭川・都・月ヶ瀬の7地区から構成され、標高200m~600mに位置する大和高原の北部にある。面積は奈良市全体の約57%を占めているが、人口は約1万人と奈良市全体の約3%だ。また、東部地域の65歳以上の人口は約4,700人で高齢化率は約45.7%と、奈良市全体と比較しても10ポイント以上高くなっている(2024年3月時点)。


奈良市では2023年2月に東部地区の月ヶ瀬・柳生でドローンを使った荷物配送の実証実験を実施している。今回は東部地域の課題のひとつである地域医療において、高齢化などに伴い需要の増加が予想される医薬品の配送実証実験を行った。


機体はエアロネクストが開発した日本発の物流専用ドローンAirTruckを利用し、レベル3.5飛行(無人地帯上空での目視外自律飛行)を行った。また、運航はエアロネクストの子会社でドローン配送事業を主事業とするNEXT DELIVERYとKDDIスマートドローンが行い、機体の制御には、KDDIスマートドローンが開発したモバイル通信を用いて機体の遠隔制御・自律飛行を可能とするスマートドローンツールズの運航管理システムを活用している。


(1)処方薬配送の実証実験


東部地域には5か所(柳生・田原・月ヶ瀬・都・興東)の診療所があり、診療所ごとに違いはあるものの、取扱い医薬品の種類や在庫状況の関係で1~2割の患者が院外処方となっている。一方、東部地域には調剤薬局がひだまり薬局田原店とひだまり薬局の2店舗しかなく、院外処方では処方薬をひだまり薬局もしくは市街地の薬局まで取りに行かなければならない。東部地域から市街地までは車で約30分、遠い場所では1時間以上もかかるうえ、路線バスは約2時間に1本程度と限られており、薬局までの交通手段が課題となっている。


また、今後、高齢化や免許返納などが進むなかで、処方薬を取りに行くことが難しくなる住民が増えることが予想され、自宅などでの処方薬の受け取りが望まれる。そこで、これらの地域課題の解決策の1つとして、ドローンを活用して服薬指導から処方薬の受け取りまでを在宅で行う実証実験を行った。


オンライン服薬指導用の通信機器を持たない患者を想定し、ひだまり薬局田原店から患者宅へオンライン服薬指導を受けられるタブレットをドローンで配送した。ひだまり薬局田原店から遠隔でオンライン服薬指導を行ったあと、ひだまり薬局田原店から患者宅へ処方薬をドローンで配送した。


飛行ルート:ひだまり薬局田原店↔患者宅
飛行距離:片道約1.4km
配送物:処方薬
飛行時間:約4分

タブレットによりオンライン服薬指導を受ける様子
処方薬を受け取る様子


(2)災害時を想定した医薬品配送の実証実験


奈良市では今年1月、災害時における迅速な医療救護活動の展開を図るべく、一般社団法人奈良市薬剤師会と「災害時の医療救護活動に関する協定」を締結した。本協定は、地震や風水害などの災害が発生した際に、奈良市と奈良市薬剤師会が相互に協力をして、医療救護活動を実施するための必要事項を定めたもので、具体的には、災害時に薬局等から救護所または避難所へ、医薬品等の供給を滞りなくするものだ。


特に、東部地域の山間部で、災害時は土砂崩れや倒木、道路の崩壊などで道路の寸断が想定される。そこで、災害発生を想定し、薬局から東部出張所(二次避難所)へドローンによる医薬品の供給ルート確保の実証実験を行った。


災害から避難中に負傷した患者や孤立集落化を想定し、ひだまり薬局田原店から東部出張所(二次避難所)へ医薬品(消毒液、絆創膏、湿布薬、鎮痛剤)をドローンで配送した。飛行ルートを開通したことで、今後、GPSの座標を利用して薬局を起点としたドローンによる医薬品の配送が可能になった。


飛行ルート:ひだまり薬局田原店→東部出張所
飛行距離:片道約6.5km
配送物:医薬品(消毒液、絆創膏、湿布薬、鎮痛剤)
飛行時間:約15分

配送物の様子
オンラインで症状確認する様子


【合わせて読みたい】

血液製剤などの医療資源を搭載しての市街地の飛行を想定して、第一種型式認証の取得を目指した動きがある。ドローンで医療資源を運べるのか、実証実験の内容をチェック。


仲川げん奈良市長のコメント

人口減少と働き手の確保が難しい中、その状況を突破する救世主としてドローンの技術を活用することが重要です。実用化を見据え、技術的に確立しており手応えを感じている一方、費用面において現段階ではサービスとして利用者の方に提供していくことは難しいと感じており、初期段階はモデル地区やエリアを絞ってサービス提供を行い、行政がバックアップしながら皆さまに使い慣れていただくことも一つだと思います。汎用性が高まることで費用面の問題も解決していくと思いますので、一気に全国に広がることを期待しています。また、将来的には無人航空機レベル4飛行にて街中でのサービス展開も想定することができます。


まずは中山間地域で最先端の技術を活用した実証実験を行い社会変化を生みだすと共に、奈良市の東部地域から日本全体を支え、より良くしていくための新しいチャレンジが生まれることを期待しています。


株式会社コミュニティメディカル 第3グループ マネージャー 一般社団法人 奈良市薬剤師会 副会長 吉谷淳至氏のコメント

私どもが東部地域で薬局を経営して約20年が経ちます。以前は患者と家族が一緒に来て、薬を処方するというのが一般的な形でしたが、最近になって高齢の患者が1人で車に乗って薬局に来ることが多くなっています。東部地域の人口推移がこの20年で約4割減少している背景もあり働き手の確保が難しい一方で、高齢の一人暮らし、高齢の夫婦への配達需要は増しており、今後も増加していく予想をしています。配達需要を解決する策を考えていた矢先に、このドローンの実証実験の話をいただきました。今後発展していくのであれば、過疎地でも患者へ薬を配達でき、非常に助かると思いました。


また東部地域には近隣に住宅が少ない場所で居住されている方もいます。能登半島地震のような災害が起きて土砂崩れや倒木で道路が分断されてしまうと、負傷者が孤立してしまうという問題があります。東部地域において、災害が起きた時のための医薬品の配送ルートがあることは東部地域にとっては大事な事だと思います。


そういった反面、薬の販売は患者から直接相談を受けて、薬剤師が対面で直接販売するということが、薬機法に記載されています。ネット販売や、オンライン投薬など、対面販売ではないルートで簡単に薬が手に入るということは良いことですが、大量服用などの問題があります。そういった懸念を払拭するため、国から定められたガイドラインを遵守し、課題をクリアにしていって、地域課題を解消する活動が全国に広がっていく事を願っています。

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